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大阪家庭裁判所 平成6年(家)5169号 審判

申立人 岩田賢美こと呉賢美

相手方 栄毅仁

未成年者 岩田野梨子こと栄玉秀

主文

未成年者の監護者を申立人と定める。

理由

第1申立て

未成年者の親権者又は監護者を申立人に指定する旨の審判を求める。

第2当裁判所の判断

1  一件記録によれば、次の事実が認められる。

(1)  申立人は、中華人民共和国(以下「中国」という。)黒龍江省で出生し、平成3年3月8日、母(日本人)とともに来日し、富山県の母方祖母の兄弟方で世話になっていたが、平成4年4月母とともに来阪し、生活保護を受けながら、アパートで生活を始めた。

(2)  申立人は、平成4年12月ころ相手方と交際を始め、平成5年2月ころ、妊娠が判明したため同人と同棲するようになった。同年9月13日、出産に備え、一人で中国遼寧省瀋陽市の相手方の実家に行き、同年11月11日、同地の病院で未成年者を出産した。

(3)  申立人は、未成年者出生後、相手方が婚姻届(平成5年9月22日付)を申立人に無断で出していたことを知ったが、これを黙認していた。

(4)  申立人は、平成6年3月日本に戻り、実父母のアパートに相手方と住むようになった。しかし、申立人と相手方は間もなく生活費のことで喧嘩になり、別居を経て、同年5月6日協議離婚届をした。未成年者の親権者については、中国法に離婚時の親権者指定の規定がないため、定めなかったが、事実上申立人が監護養育を続けた。相手方は、同年6月ころまでは未成年者を渡すよう求めてくることがあったが、申立人が強く拒絶すると、以後交渉を断った。

(5)  申立人は、現在住所地のアパートで未成年者と二人で生活しているが、1日の大半は徒歩5分ほどのところにある父母のアパートで過ごしている。父母は無職で生活保護を受給している。母は、足が少し弱く、就労にはやや困難があるが、日常生活に支障はなく、申立人とともに家事を行い、申立人の外出中は未成年者の世話をしている。

申立人は月額16万円の生活保護を受けており、生活に困ることはない。

(6)  未成年者は、出生以来、継続して申立人に養育され、その父母や親族とも日常的に接し、かわいがられている。特に病歴はなく、順調に発育・発達している。

(7)  相手方は、平成6年7月30日に日本から出国していることが確認されているが、その他の手がかりはなく、所在、就労状況などは不明である。

(8)  申立人は、未成年者とともに日本に居住し続け、帰化することを希望している。しかし、相手方の所在が不明であり、申立人が未成年者の法定代理人とならなければ帰化申請ができないため、本件を申し立てた。

2  本件の国際裁判管轄権につき検討するに、親権者又は監護者の指定事件については、子の生活関係の密接な地での審判がなされることが子の福祉に適合し、かつ、本件では相手方の所在が明らかでないことに照らすと、わが国が裁判管轄権を有し、かつ、未成年者の居住地を管轄する当裁判所が国内管轄権を有するというべきである。

準拠法については、法例21条により、未成年者の本国法である中国法が準拠法となる。

同国の法律には、父母の離婚に際し、親権者を父母のいずれかに指定すべきことを命じた規定はない。しかし、同国婚姻法29条には、離婚後、父母は子女に対し撫養及び教育の権利と義務があること、離婚後、哺乳期内の子女は哺乳する母親により撫養されるのが原則であること、哺乳期後の子女について、父母双方の間に撫養の問題で争いが生じ、協議が成立しない場合は、人民法院が子女の権益及び双方の具体的情況に基づいて判決することなどが規定されている。この人民法院の判決は、日本における子の監護に関する処分と同様の内容を有しており、家事審判法9条乙類4号の審判により代行することが可能と考えられる。

そして、前記認定の未成年者の年齢、監護養育の状況、申立人の養育能力、相手方が所在不明であること、申立人が未成年者の帰化申請を希望していること等の諸事情に鑑みると、申立人を未成年者の監護者と指定するのが同人の福祉に適合するものと認められる。

よって、主文のとおり審判する。

(家事審判官 坂倉充信)

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